バンド・デシネ(B・D)の歴史的流れ 1960〜1980年代 バンド・デシネ黄金期-青年向け作品の登場

このシリーズではバンド・デシネの歴史について5つの時代区分に分け概観していく。本記事では、3つ目の時代区分であるバンド・デシネ黄金期の時代について取り上げ、どのような作品が生み出されていったかについて解説していく。

はじめに

前記事「バンド・デシネ(B・D)の歴史的流れ 1920〜1960年代 子供向けバンド・デシネの時代-新聞・雑誌連載へ」では、主に『タンタン』作品や週刊雑誌『ピロット』を中心に取り上げ、読者世代の変化によってバンド・デシネが従来の子供向け漫画から大人向けの作品へと変貌した様子を素描した。1960年以降、カウンターカルチャーの興隆を背景に若者・大人向けバンド・デシネが急増する。ここでは青年向けバンド・デシネ時代に重要な役割を果たした雑誌について取り上げ当時の様子について概観していきたい。

カウンターカルチャーの盛り上がり 若者文化が花開く時代

1960年代は子ども時代から漫画に親しんだ読者が大人世代になる時代であり、さらに先行世代に対抗するカウンターカルチャーの隆盛により、若者文化が開花した時代である。こうした背景により若者あるいは大人向けのバンド・デシネ作品が一挙に増えていった。1960年には『シャルリー・エブド』(Charlie Hebdo, 1970)の前身にあたる”バカで意地悪な雑誌『ハラ=キリ』(Hara-Kiri, 1960) 1)が創刊され、1コマのみの政治・社会的諷刺画を掲載した。

60年代半ばにはエリック・ロスフェルド、ジャン=クロード・フォレスト、ギィ・ベラートらがエロティックで暴力的な青年向け作品を出版する2)。60年代末以降も月刊『シャルリ』(Charlie, 1969)やゴトリプ、ブルテシェール、マンドリカ(Nikita Mandryka)という三人のユーモア漫画家が創刊した「大人専用漫画雑誌」『レコー・デ・サヴァンヌ』(L’Écho des savanes, 1972)3)など新しい雑誌が次々と創刊された。なかでもドリュイエとメビウス(ジロー)らが1975年に創刊し、サイバーパンク的かつ圧倒的なヴィジュアルで描いたSF作品を掲載した『メタル・ユルラン』(Métal hurlant, 1975)やカステルマン社が1978年に創刊した『ア・シュイーヴル』(À suivre)は一世を風靡した漫画雑誌である。『ア・シュイーヴル』は当時連載小説において掲載分の末尾に添えられる「次回につづく」の一言を雑誌に導入し4)、60ページ程度の単行本に収まりきらない分量の長編作品の連載に注力した。このようにしてこの時代のバンド・デシネは従来の子供向け漫画とは一味違った切り口で再編成されていった。

漫画雑誌が廃刊に 単行本での出版形態の定着

1970年代末から1980年初頭において多くの漫画雑誌が流通し、連載作品は次々と単行本化されていった。これに伴い、多様なスタイルが開拓され、読者層も広がっていった。しかし、単行本の発刊が増えるにつれ、単行本発売を待ってから購入する習慣が定着した結果、雑誌そのものの売り上げは伸び悩み、1980年代末には多くの漫画雑誌が廃刊となった。これ以降、バンド・デシネは雑誌掲載を経ず、最初から単行本で発売する出版形態が主流となる5)。

おわりに

ここでは、1960年代に流通した大人向け漫画雑誌について中心に取り上げ、バンド・デシネ作品のスタイルと読者層の多様化、雑誌刊行から単行本出版への形態へ移行する様子について記述した。こうして従来の子供向け漫画とは異なる若者文化が花開き、斬新なテイストや新たなバンド・デシネシーンが形成されるに至った。

引用文献

[1] 美術手帖編集部「バンド・デシネのすべて」、『美術手帖』、美術出版社、2016年8月、45頁。
[2] 同上
[3] 笠間直穂子, フランス=ベルギー系漫画小史 黎明期から今日まで (創刊一二〇周年記念特集 外国語・外国文化の現在), 國學院雑誌 115 (11), p165-166
[4] 同上, p166
[5] 同上, p166

参考文献

[1] 三浦信孝, 西山教行編「現代フランス社会を知るための62章」、明石書店、2010年、94-96頁。

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