フランスの情報通信技術(TIC)への取り組み:IT革命以降フランス政府が進める情報化政策と文化政策

この記事では、17世紀のフランスのIT革命における発明について取り上げ、それ以降フランスの情報通信技術(TIC)がどのような変遷を経て発展してきたのかについて書いていく。その際、フランス政府が推進する情報化政策や文化政策について触れていく。

\この記事のテーマ・キーワード/

「現代フランス社会を知るための62章」はフランス社会について62のテーマを詳しく解説している書籍である。社会、教育・文化・スポーツ、経済・産業、法・法律、政治と外交の5つの主題に分かれおり、幅広い事象について理解を深めることができる。この記事は主に本書「第34章 情報通信技術」を参考に書いている。より詳しい内容について知りたい方はこちらを参照されたい。

はじめに

フランス語で情報通信技術は technologies de l’information et de la communication 略してTICと呼ぶ。これは1990年代後半にIT革命が始まったことによって普及した言葉だ。

先頭にN(Nouvelle=新しい)を付してNTICとしたり、語末にE(éducation=教育)を付してTICE(情報通信技術の教育への利用)を表したりすることもある。

様々な言葉が存在することは、その概念が醸成され機能している証であり、この時代の情報通信技術の発展を垣間見ることができる。

あき
英語の情報通信技術はICT、フランス語ではTICとなる。

17世紀以降のフランスのIT革命

過去を振り返ってみるとフランスはかつて情報通信技術の先進国であったといえる。17世紀以降フランスでは次のようなシステムが次々と発明されていった。

中でもミニテルはフランス・テレコムが電子電話帳として開発した技術で、電話番号検索、時報、天気予報、声のタウン案内、メッセージ交換、通信販売、ホーム・バンキング、チケット予約、ゲーム、アダルト系にいたるまで多彩なサービスを提供し人気を博していた。(1

特にタウン案内では、観光情報、交通案内、美術館・博物館案内、映画案内等の情報が簡単に取得することができた。これはビデオテックシステムを応用したもので、世界唯一の成功例と言われるほど革新的な発明であった。

フランスはミニテルの開発と普及により、情報通信技術とその社会的活用の先端にいた。しかし、そのころ世界ではアメリカの技術であるパソコン、インターネットなどが急速に普及していった。

そして、フランスがミニテルにこだわったことが、インターネットへの転換を遅らせる原因となってしまい、その結果フランスは情報通信技術の普及において完全に出遅れてしまうこととなった。

その後フランスはIT後進国としてのレッテルを貼られ、相当な苦労を強いられることとなる。

あき
インターネット普及には遅れてしまったが、フランスのIT技術の研究開発力は高かったとえる。

インターネット普及に向けたフランスの情報化政策

各国先進国に比べ、インターネット普及に遅れを取ったフランスでは、政府による情報化政策が展開されるに至った。

まず1994年にフランス・テレコム元総裁でミニテル発案者であるジェラール・テリが『情報ハイウェー』というレポートを作成した。これにより彼は、光ファイバー開発に向け、国家に大規模な投資を求めた。

1997年にジョスパンが首相に就任し、ようやく政府が動き出した。彼はIT国家戦略に関わる「野心的行動プラン」を策定した。そして1998年、「情報化社会のための政府行動計画(PAGSI)」が採択された。PAGSIによって次の6項目を優先分野とした。

  1. 教育の情報化
  2. 文化資源の電子化
  3. 電子行政
  4. 電子商取引
  5. イノベーションおよび研究開発支援
  6. 法制度の整備

「①教育の情報化」において、新しい情報通信ツールの整備を目指し、教育機関への機器設置やインターネット環境整備、教材のマルチメディア化が進められた。

「②文化資源の電子化」では、フランスの文化資産のデジタル化およびインターネット配信、マルチメディア文化センターの設立が進められ、フランス文化資産の保存および利用環境の整備とその国際化が図られた。

彼は情報化政策において「国民全員にインターネット接続を」をスローガンに掲げ、デジタル・デバイド(情報格差)対策に力を入れた。特に、教育システムの中に情報リテラシーを組み込むことを目指し、地方雇用局や図書館、郵便局などの公共施設への無料インターネット端末の設置を推進した。

これにより、現実にインターネット利用者や携帯電話所有者は飛躍的に増加し、公共部門における公共サービスのデジタル化やデジタルデバイドの解消等、電子化社会に向けて確実に歩みを進めていった。

1999年-2000年の間に「情報社会のための省庁間アクション・プログラム」が策定され、社会、地域間のネットワーク・アクセスの格差を是正するため、デジタル・デバイド解消がより一層進められた。

また、優先課題の中に「文化とコンテンツを豊富にし、インターネット上でのフランスのプレゼンスを向上する」という事項が追加された。これは、情報化政策に文化政策が加えられた点で注目すべき方針である。

これ以降も、様々な取り組みが施策され、フランスはデジタル大国として立場を確立するようになったと認められる。

情報化社会におけるフランスの文化政策

フランス政府は、情報化社会においても文化政策に重点を置き、文化国家を維持するため様々な取り組みを行っている。

例えば、フランスは文化遺産のデジタル化を優先課題として捉え、推進している国家である。フランス国立図書館は資料のデジタルアーカイブ化を進めており、1997年から電子図書館(GALLICA)では420万点以上(2017年)のデジタル資料を所蔵しており、自由にアクセスすることができる。

フランス国立美術館連合は、所蔵品をデジタル化し、ウェブ上で無料公開するとともに、デジタルコンテンツのオンライン販売を展開している。

さらにフランスは国内にある約1,200館の国公立美術館をはじめとして、欧州連合各国にある所蔵品のデジタル化に着手しており、その最たる例が、ルーブル美術館の所蔵する絵画や彫刻等のデジタルアーカイブである。これにより、それら作品の保存・修復、一般公開に役立てている。

フランスはまた、ソフトウェアやマルチメディアコンテンツ産業への投資と開発推進政策を進めている。特に、2005年7月に開始された産業クラスター計画の一つ「キャップ・デジタル」には映像、マルチメディア、デジタル分野の250もの企業や教育・研究機関が集い、研究開発が行われている。ソニー・フランス社のロボットAIBOの人工知能や、「ファイナルファンタジー」の3Dグラフィックス技術はいずれもフランス企業によって開発されたものである。(2

フランスは情報化がフランス語自体に与える影響に対しても配慮している。フランス語をフランスの文化資源と捉え、フランス文化庁フランス語・フランスの諸言語総局(DGLFLF)は、コンピュータ・インターネット分野における専門用語のフランス語リストや英語との比較表を作成し、情報通信技術の規格が言語の多様性を考慮したものとなるよう国際標準化機関への働きかけを行っている。また、多言語検索エンジンや自動翻訳、多言語リソースの研究開発を推進している(3

フランスにおける文化政策と情報化政策は一見、異なる分野の取り組みとして行われてきたように見えるが、文化大国フランスにとって、それぞれの政策は互いに相関があり、重要な役割を担ってきたのである。

あき
情報化から受ける文化資源への影響を考慮するフランスの姿勢は日本にとっても見本となるものである。

おわりに

ミニテル普及後、世界のIT革命に乗り遅れてしまったフランスであったが、政府を中心に情報化政策が推し進めたことが功を奏し、現在の立場まで上り詰めることができた。

フランスが国家総動員で情報化政策を推進する背景には、インターネットを介して世界にフランス語やフランス文化を発信することで、フランスの地位を高めるという目的が存在する。

フランスが進める情報化政策について今後の動向に注目したい。

引用文献
[1] 三浦信孝, 西山教行編「現代フランス社会を知るための62章」、明石書店、2010年、197頁。
[2] 同上、201頁。
[3] 同上

参考文献
星野浩司, フランス情報化政策とミュージアムの教育普及における取り組み, むなかた電子博物館紀要, 2 , 2010, <https://munahaku.jp/wp-content/themes/munahaku/img/kiyou/vol02/pdf/27-40.pdf>

フランスの情報通信技術(TIC)への取り組みを知るための文献・情報ガイド

「現代フランス社会を知るための62章」はフランス社会について62のテーマを詳しく解説している書籍である。社会、教育・文化・スポーツ、経済・産業、法・法律、政治と外交の5つの主題に分かれおり、幅広い事象について理解を深めることができる。この記事もこちらを参考に書いている。より詳しい内容について知りたい方はこちらを参照されたい。


星野浩司, フランス情報化政策とミュージアムの教育普及における取り組み, むなかた電子博物館紀要, (2), 2010, <https://munahaku.jp/wp-content/themes/munahaku/img/kiyou/vol02/pdf/27-40.pdf>

最新情報をチェックしよう!